この大学の少林寺拳法部の監督を引き受けたときから、一つ決めていることがある。
それは、たとえ一人でも練習を希望する部員がいるなら、できる限り練習に参加するということだ。そのことは部員たちにも伝えている。
そうしていると時々、
「監督、私一人ですが練習できますか?」
という連絡が入る。こういう時は、たいてい何かしらの理由がある。
今回も朝8時に待ち合わせをし、2時間半のマンツーマン指導を行った。
待ち合わせ場所のファミリーマートで車に乗り込むなり、彼女は珍しく強い口調で言った。
「私は背が低いのが悔しい。そのせいで皆が私を馬鹿にしている気がする」
何があったのかは分からないが、よほど悔しい思いをしたのだろう。
この日、二人の練習で一番伝えたかったのは、膝の使い方だった。
頭だけで行う武道は、膝が動いていない。全身で全体を捉えること。身体全体で技を感じること。その感覚が分かると、技の理解は一段深まる。
こればかりは言葉で説明するだけでは伝わらない。体験して初めて見えてくる世界がある。
練習後は冷やし中華を食べながら、いろいろな話をした。
すると、今まで見えていなかった彼女の一面が少しずつ見えてきた。
背が低いことで軽く見られるのが悔しいと、彼女は何度も話していた。しかし一方で、「武道をやっています」と言うと周囲から意外そうな反応をされるらしい。今の彼女にとって、少林寺拳法は大切なアイデンティティの一部になっているようだった。
また、乙一の長編小説が好きで何十冊も読んでいるという。映画では『レオン』が好きで、冷酷な殺し屋だった主人公が人間らしい感情を取り戻していく過程や、最後に依頼人を守るため命を懸ける場面が印象に残っているそうだ。
さらに意外だったのは、体力に自信があることだった。短距離は苦手だったが、高校時代の長距離走では上位に入り表彰された経験もあるという。
口数が少ない分、損をしているようにも見える。しかし彼女の内面には、今まさに豊かな森が育ちつつあるように感じた。
これから先、良い出会いに恵まれ、自分らしい人生を築いていってほしい。
そして武道の修練が、その人生に少しでも花を添えることができるなら、指導者としてこれほど嬉しいことはない。

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